2006年9月11日

「小さき者へ」 重松清

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いや〜、重松ワールドにまたヤラレてしまった... 親と子、大人と子供をテーマにした全六編の短編集。「そういえば子供の頃、大人(とか親)にこんな風に言われるのがイヤだったなぁ」とか、「今から考えればつまんないことだけど、子供の頃はこんな事で悩んでたなぁ」とか、出てくるエピソードは共感できることばかりなのだが、同時にそれらを忘れかけている自分を思い知らされ「ハッ」としてしまう。「大人だって昔は子供だったんだ!」という、当たり前なんだけど忘れてしまっている事を、上手く物語に置き換えて、我々に説教しているようだ。

超お奨め! というか重松清はどれでもお奨め。

2006年8月24日

「ダーク」 桐野夏生

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女探偵・村野ミロシリーズ。「顔に降りかかる雨」の続編。

いや〜 暗い暗い... ある意味タイトル通りだ。主人公の村野ミロ、前作の「顔に降りかかる雨」とは別人になってしまったかのような変貌ぶりだ。いきなり「死にたい」から始まり、どうせ死ぬんだからと、周りを巻き込みながらヤケクソに行動するミロ。殺人、レイプ、ホモセクシャル、麻薬、裏社会、ヤクザ... もう、読んでいてい気分が悪くなってくるのだが、そんな中で村野ミロの「死のう」から「生きよう」に変わっていく様は、重く暗いこの物語に一筋の光をもたらしている。

桐野夏生は「OUT」や「柔らかな頬」辺りの有名どころは読んでいる。とても好きな作家なのだが、この「ダーク」は微妙。物語としては面白いのだが、いかんせん「暗い」。読んでいる自分もズブズブと闇に沈んでしまうような感覚だ。

2006年7月 3日

「Op.ローズダスト」 福井晴敏

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福井晴敏は「亡国のイージス」でハマってしまった、大好きな作家。映画は最低だったけど(笑 今回の「Op.ローズダスト」も大作で、読み応えあり。普段ハードカバーは読まないんだけど、福井晴敏だけは例外。だって、文庫本化まで待てないんだもん...

福井晴敏の作品は、そのほとんどで「日本再生」というテーマが流れている。非常に重いテーマだし、我々にとって見ればあまり現実味のないテーマなのかもしれないが、逆に言うとその「現実味の無さ」に警鐘を鳴らしているのだろう。

あと、よく出てくるのが「ダイス」という諜報機関。ほんまにあるんかいな? って感じだけど、無いとも言い切れないんじゃないかな? ひょっとして? なんて思えたりもするぐらいよく出てくる。

さて、本題。結論から言うと「ちょっと期待はずれ」。特に後半(下巻)、なんとなくスピード感・緊張感が薄く感じられ、スローモーションを見ているようで少々拍子抜けしてしまった。スピード感が必要な場面なのにもかかわらず描写が細かすぎるのが原因なのだろうか。あと、もう一つ二つどんでん返しやサプライズがあるかと思いきや、意外と淡泊に終わってしまった感じ。あと、全体にわたって「古い言葉/新しい言葉」というキーワードが出てくるのだが、正直「?」な感じだった。意味づけが希薄、という感が否めない。

しかしながら、いつもの饒舌に語り揚げる「福井節」は健在だし、スケールの大きさはさすがとしか言いようがない。次回作に期待したい。

たぶん、映画化は無理でしょう(笑 金かかりそうだし。

2006年3月15日

「レイクサイド」 東野圭吾

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ちょっと短めの殺人ミステリー。中学受験勉強合宿で起きた殺人事件。4家族と塾講師が絡む謎。いったい真相は...

う〜ん、いかにも「火曜サスペンス2時間単発物」用に作られたようなストーリー。映像化しやすそう(すでに映画化されているそうだが...)。まあ確かにひねってある展開なんだけど、底が浅い感じ。半日ぐらいでざっと読めて、後に何も残らないし、メッセージ性も希薄。

本日発売の福井晴敏「Op. ローズダスト」までの時間つぶしで読んだのだが、まあ、なんてことない普通の作品だった。

そんなことより、本日発売の福井晴敏「Op. ローズダスト」ですよ! もちろん早速買いましたよ。私、普段はハードカバーは読まない主義なんですが(だって、重いし...)、福井晴敏だけは例外。久々の新作で、ワクワクですよ。

2006年3月 9日

「日輪の遺産」 浅田次郎

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大日本帝国陸軍が奪った、マッカーサーが二代にわたって築いたフィリピン独立資金のための時価200兆円の財宝。それを戦後復興のために秘密裏に隠す。さて、その財宝は実在するのか? という話。もちろんフィクション。タイトルの「日輪」とは大日本帝国のこと。

「徳川埋蔵金」とか「インディ・ジョーンズ」みたいな話かと思いきや、話は意外な方向へ進む...

いやはや、面白い! 過去と現在が交互に描写されるという、よくある手法で進み、それが徐々に関連づけられていく。金に目がくらんだ強欲人間のように見えて実は... う〜ん、上手いなぁ。また、マッカーサーとその取り巻きが、かなり滑稽に書かれていて、これまた面白い。

お奨め。

2006年2月 8日

「星々の舟」 村山由佳

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第129回直木賞受賞作。4兄妹と父・母それぞれのストーリーが短編になって繋がっている。どの話も一つの小説として逸品だ。それらのストーリーが、夜空の星座のごとく線で繋がり、一つの形と成している感じだ。

しかし、読み終えて思った。「こんなエロい家族いるかいな...」。禁断の恋に悩む次男と長女、本妻が亡くなった後、すぐに妾と再婚する父、ダラダラと不倫を続ける次女、罪悪感に駆られながら部下と不倫をする長男... とまあ、まさに「色情家族」である。

正直、あまり好きな作品ではない。結局何が言いたいのかよく解らないまま、「なんだかエロい話が続いて、最後に父の戦争話で終わり」って感じだ。直木賞=おもしろいとは限らないな、と感じた作品だった。しかし、一つ一つの物語は、短編として逸品であることは間違いない。ただ私の肌に合わなかっただけだ。

2006年1月20日

「トワイライト」 重松清

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重松清は、私の大好きな作家。特に親子物は涙なしでは読めない。また、誰もが経験する少年・少女時代を、何とも「いいところをついてくるなあ…」という感じで描く。この「トワイライト」も、少年・少女時代に抱いた自分の未来と現実のギャップを、「そうだよな〜」と身につまされるエピソードで綴っている。

小学校時代に埋めたタイムカプセルを、30代後半になったクラスメイトで掘り起こす。未来の自分に宛てられたものは? そして現実は? 読んでいるこちら側も、実に「アイタタタ...」といった感じだ。本のタイトル通り、黄昏れてしまった30代後半の登場人物たちが、過去の自分から届いたメッセージを受け、何を考え、さらに現在から未来へ何を願うのか? 何を望むのか? 何を残すのか...

私も登場人物たちと同年代であり、読んでいて身につまされるというか、悲しくなってきた(笑。「初心忘れるべからず」とは言うが、「生きていく上でのモチベーションの維持」は、なかなか難しいのが現実。読み終わった後、ダラダラと生活してしまっている自分に対して「ちゃんとしろよ!」と言いたくなる小説だった。

同著書の「疾走」や「流星ワゴン」なんかの派手さはないが、私は好きな作品だ。

2006年1月 9日

「白夜行」 東野圭吾

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久しぶりに分厚いのを読んだ。ここまで厚いと、読みにくくてしょうがない。上下巻に分ければいいのに…と思うが、たぶんキリの良い所がなかったのだろう。電車の中で立ちながら片手で、なんてことは無理。まあ、京極夏彦の「鉄鼠の檻」(旧版)なんかに比べればかわいいものだが…

東野圭吾は、前回読んだ「時男」が最高によかったので、今回の「白夜行」もかなりの期待を持って読んだ。結果は◎。これはおもしろい!

この小説は純愛ストーリーだと思う。「だと思う」なんて、何で断定できないのかというと、この小説、なんと、主人公の男と女が直接会話をしたり絡むシーンが無い。しかも、主人公の男女の関係は、登場する刑事の憶測でしか語られていないのである。2人の主人公の物語が別々に進んでいくのだが、そこに関係が、チラチラと見え隠れするだけ。でも、読んでいる側は、刑事と同じように憶測をたてながら読んでしまっている。

まあ、この手の小説にありがちな、「そんな完全犯罪、次々と成功するはずが無かろうに…」というところはあるのだが、その犯罪手法というのが、インベーダー・ゲーム、パーソナル・コンピューターの登場から、ネットワーク、IT社会といった一連の時代の流れを逆手にとる、なんとも「ニヤッ」とさせられるやり口なのだ。

確かに長い物語なのだが、ぐいぐいと引き込まれていく展開は、さすがだ。超おすすめ。

そういえば、今週にもTVドラマがスタートするようだ。あのTVドラマ版セカチューの綾瀬はるか&山田孝之コンビ。セカチューの印象があまりにも強すぎるので(泣きました。ハイ。)、「白夜行」の「一見さわやか・実はドロドロ」な話にあうのかどうか… まあ、見てのお楽しみ、ということで。
(そういえば、TV版セカチューも、小説とは全然違ってたな… とか思いながら)

2005年12月 9日

「蝉しぐれ」 藤沢周平

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私は時代小説を読まない。というか、少々敬遠しているのかもしれない。なぜかは解らないが。今回、知人の強い勧めもあり、また映画「たそがれ清兵衛」をたまたま見て、結構気に入っていたので、小説も読んでみることにした。

海坂藩という架空の藩が物語の中心になっている。山形県の庄内藩をモチーフにしているそうで、藤沢周平の作品にはたびたび登場しているらしい。「たそがれ清兵衛」もそうだった。

主人公である牧文四郎の、少年から大人へと成長する過程の「恋」「友情」「仕事」を描いたストーリー。その中でも「恋」の部分が何ともやるせなく、ほろ苦い。その気持ちが「恋」なのかはっきりしないまま、すれ違いや運命のいたずらによって結実せずに、お互い全く違う世界に進んでしまう。私はこの小説を読みながら、わずかではあるが私にも同じような経験がある、と頷いていた。「あの時こうしていれば」「あのときあんなことを言わなければ」「あのときの彼女の態度はもしかして」とか、半分妄想も入っているかも知れないが、多かれ少なかれ誰でもあるのではないだろうか? 読み終わった後の印象は、「同窓会で、昔好きだった女の子に久しぶりにあって、『あのころ、○○君のことが好きだったんだよ』と言われてしまった」ような感じがした(笑。

現代にほとんど置き換えられる内容なのだが、やはりこの時代、武士には「死」や「戦い」がつきまとう。そういう意味では、要所要所でピリッとした緊張感がメリハリをつけている。でも全体的には「清々しい」空気感がある。

そして何より、ポイントで「蝉しぐれ」の描写が効果的に使われている。「暑い」とか「うだるような」とか、夏の描写は色々あるが、「蝉しぐれが...」という描写だけで、強烈にその場の雰囲気が感じられる。必要最小限の描写で非常に臨場感が出ている。

とても良い作品だった。お奨め。映画も見てみようかな...

2005年12月 6日

「発火点」 真保裕一

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実は今まで真保裕一の作品を読んだことがなかった。簡潔かつ大胆なタイトルと、どれも読み応えがありそうな分厚さで、前から気になってはいた。ということで、私にとってこの「発火点」が初の真保作品である。

はっきり言って、ガッカリした。殺された父親の真相をその息子(主人公)が探っていく話なのだが、その間、被害者家族として好奇の目にさらされ、そのことが原因でひねくれて成長していく主人公のエピソードが大半を占めている。正直、どうでもいい話が多すぎる。この本、半分の厚さでいいのではないか? と思えるほど途中のエピソードが長く、意味のないものになってしまっている。

なぜ父親が、友人に殺されなければならなかったのか? その根本的な原因となるところ、所謂発火点はどこなのか、という肝心要の部分が意外と淡泊で「え? なにそれ? それだけ?」という印象を持ってしまった。もっとドンデン返しがあるのだとばかり思っていたからかも知れないが。

いずれにしても、私的に×。残念。

2005年10月25日

「地下鉄(メトロ)に乗って」 浅田次郎

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浅田次郎を2連チャンで読んだ。前から気になっていた本である。

「地下鉄(メトロ)に乗って」は、前回読んだ「椿山課長の七日間」とはうってかわって、終始どんよりとした空気が漂う作風になっている。色で喩えるならば、彩度の低いセピアカラー。それは私が、この本に出てくる昭和初期、戦時中や戦後の混乱期を、モノクロームの写真でしか見たことがないせいかもしれない。

今も昔の面影を微かに残す東京の地下鉄。東京の街を時代と共に走り続けた「メトロ」が主人公を過去へと導く。「兄の自殺」の真相、父との確執、その父が戦後の混乱の中、財を成していく様。そして、不倫相手の女のあまりに残酷な生い立ち...

タイムスリップやタイムパラドックスを描いたSFチックな世界なのだが、なぜかそれを感じさせない。やはりそれは、全体を「セピア調」に包む雰囲気のせいだろうか。

なお、この作品も映画化が決定しているそうだ。来年の公開予定。「セピア感」が上手く表現されていると嬉しいが...

2005年10月22日

「椿山課長の七日間」 浅田次郎

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死んだ人間が、七日間だけ別の体を借りて現世に戻る、って話。結構重ための内容かと思ったら、そこは浅田次郎、結構コミカルに展開する。デパートの婦人服売り場に勤めていた椿山課長が、セールの真っ最中に突然死。その他、交通事故に逢ったいたいけな少年と、人違いで刺された子分思いの「優良ヤクザの親分」の計三人が登場する。

父と子、子供と親、夫と妻、師弟関係、といった様々な人間関係の本質が「死んでからわかる」という、何とも切ない話なのだが、軽快でコミカルなタッチがそれを感じさせない。

冥土、所謂極楽か地獄か審判される「あの世とこの世の狭間」の部分が面白い。まるで運転免許の更新のように、前世での罪の度合いによって各講習があり、講習を受ければ罪が免除される、みたいな(笑。地獄へ堕ちる人間は、喩えるなら「免許取消処分」かな。「Spirit Arrival Center」通称SAC(サック)だそうな(爆笑。

終始コミカルなタッチなので、単純に「あり得ない話」として楽しめるし、かといって奥はけっこう深い。浅田次郎はやはりダイナミックレンジが広い作家だ。

あと、テレビドラマ化が決定しているそうだ。期待できるかな?